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OSSの地平へ
富士通の取り組み

なぜ富士通はOSSにおいて
中心的な役割を果たし続けるのか?【前編】

[Linux Foundation ボードバイスチェア 江藤 圭也が語る]

Linux(注6)の登場から始まったOSS(注5)(Open Source Software)の流れはコンピューティングのさまざまなシーンに広がり、今やOSSの存在なくしてICTの開発を語ることはできません。LinuxからOpenStack(注8)へ、そしてさらに多様な領域へ。富士通は、Linuxから始まるOSSの広がりに積極的に関わり、その中心的な役割を果たしています。富士通のLinux開発を統括し、Linux Foundationにおいてボードのバイスチェアを務める江藤圭也がその取り組みについて語ります。

OSはすべて自分たちでつくるもの。
あの頃メインフレームの世界ではそれが技術者の常識でした。

まず始めに、これまでの富士通でのキャリアを簡単に教えてください。

私はそもそもOS(注1)をやりたくて富士通に入ったのです。入社は1987年。以来、ほぼずっとOSに関わっています。その意味では、富士通の中でも非常にユニークなキャリアの持ち主だと思いますね。

当時、OSを取り巻く状況はどのようなものだったのでしょうか?

ひとことで言うならば、OSは自分たちでつくるもの。メインフレームなどに取り組むベンダーにとってそれが常識でした。私自身、入社してから10年ほどはOSの研究開発に携わりました。まったくのゼロからコツコツと自分たちの手でOSをつくっていく世界ですね。

当時、富士通のOS開発に対する評価は高く、学会で発表した論文や取得した特許の数は相当の数に上るはずです。

そんな時代が続いて、OSSの兆しが見え始めたのはいつくらいからなのでしょうか?

1980年代にUNIX(注2)、1990年代にSolaris(注4)が広がり始め、富士通もサーバのOSとしてそれなりに取り組んでいました。けれども、OSSの流れが本格化するのはやはりLinuxの登場からでしょうね。富士通でも2000年前後あたりから本格的にLinuxに取り組み始めています。

そして江藤さんもLinuxに取り組むことになったわけですか?

いや、私は最初、UNIX系のOSSであるBSD(注3)をやっていたのです。同じフロアにLinuxをやっているチームがいたのですが、正直あの頃はOSSならLinuxよりもむしろBSDの方がよいのではないかと私は思っていました。確か社内でもそんな議論があったと思います。

なぜLinuxよりもBSDに関心を抱いたのでしょうか?

BSDは、米国カリフォルニア大学バークレー校の人たちがつくったOS。それだけにアーキテクチャがきれいなのですよ。一方、Linuxはバザール方式[補足1]といって誰もが自由に開発に携わることができる。まったく価値観が違うわけですね。実際、その後にLinuxの開発に携わることになるのですが、苦労の連続でした。当時「Linuxなら何でもできる」なんて言われていたのですが、当時のLinuxはPC向け機能の開発が中心で、ハイエンドサーバのOSとして使おうとすると何もできない......。

  1. エリック・レイモンドによるLinuxカーネルとその周辺の成功を分析した『伽藍とバザール』で作られた、Linuxの開発に特有な開発手法の呼び名。エリック・レイモンドによるLinuxカーネルとその周辺の成功を分析した『伽藍とバザール』で作られた、Linuxの開発に特有な開発手法の呼び名。

Linuxコミュニティにおける潮目が大きく変わり、富士通の存在が広く認知されるようになりました。

このような背景の中、富士通はLinuxへと大きく舵を切り、Linux開発の中心的な役割を果たしていくことになります。

2007年にワールドワイドなLinux Foundationが立ち上がり、富士通はそのボードメンバーの1社として名を連ねています。しかし、実際の活動はもっと前からやっていて、富士通にとって節目となったのは2002年あたりだと思います。その前年、富士通は、IBM、NEC、日立と4社協業のもとエンタープライズLinuxを推進する発表をしています。2002年には富士通にLinuxの専任チームが設立され、私はその課のリーダーを任されました。当時で開発メンバーは90名近くに上っていたように記憶しています。

図1 富士通のオープンソースにおける足跡

そのひとつの成果が2005年に発売された基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」です。

当時では世界でも先駆的といえる、LinuxをOSに搭載したエンタープライズサーバでした。この開発では、Linuxの大きなメリットである開発コミュニティのパワーを活用するとともに、核となるかなりの部分を自分たちの手で開発しました。さきほども言ったように、当時のLinuxはいざハイエンドサーバに搭載しようとすると“できないこと”ばかりだったのです。私たちが丸ごとつくり直した機能も多くあります。

メモリ・ホットプラグ[補足2]がよい例だと思います。サーバの電源を落とすことなくメモリを交換できる機能ですね。ハイエンドサーバでは常識とされていた機能ですが、当時、Linuxでは実現できていなかったのです。そこで私たちはLinuxのコミュニティで何度もその重要性を訴えました。けれども、あの頃のLinuxはメンバーの視線がPCばかりに向いていて理解が得られず猛反対されました。そこで、私たちはLinuxのメモリ・ホットプラグを自分たちで開発することにしたのです。

しばらくしてその成果をワールドワイドなミーティングで発表した時のこと。私たちの発表を聞いたメンバーの一人が大声で言いました。“We killed memory hot-plug guy. But they came back!”。「あれほど無理だと反対したのに、彼らはついにやり遂げてしまった」というわけですね。私たち開発者にとって最大の褒め言葉。Linuxコミュニティにおける潮目が変わり、富士通の存在が広く世界で認知されるようになったのはあの頃からだと思います。

  1. コンピュータのメモリ(主記憶)を運用中に追加・削減する機能。

OSには自分たちの「魂」を込めておきたい。それがLinuxに注力する富士通の一番の理由だと思います。

2010年には東証の株式売買システム「arrowhead」が稼働します。

この「arrowhead」は、Linuxで実現したハイパフォーマンスかつミッションクリティカルなシステムで当時から注目を集めました。しかし、私たちはいきなり「arrowhead」の開発に着手したわけではなく、東証の小規模なシステムにLinuxを投入し、Linuxの弱点をつぶしたり、逆にメリットを生かすなど、独自にノウハウを蓄積してきた。その集大成が「arrowhead」というわけなのです。

実は私たちがLinuxに取り組み始めた当初、「Linuxをミッションクリティカルなシステムに使うのは到底不可能だ」という声もありました。たくさんの壁を乗り越えながら「arrowhead」にたどり着いたのです。

「arrowhead」にはどのようなノウハウが生かされているのですか?

バグのテストもそのひとつだと思います。それまでメインフレームの世界では、開発段階でのバグはすべて自分たちで直すというのが常識でした。ところがある時、私たちは思いついたのです。「Linuxコミュニティには世界中に膨大なメンバーがいるのだから、そのパワーをバグのテストに生かせば効率が高まるのではないか?」そこで、「arrowhead」開発で気づいたLinuxの弱点である領域について数多くのテストセットをつくり、それをオープンソースとして公開しました。すると、そのテストセットが世界中のメンバーに広がり、使用するばかりでなくバグを報告してくれたり、律儀につくり直してくれる人も現れたのです。まさにOSSの長所ですね。

このような仕組みを取り込むことで開発のスタイルも大きく変わっていきました。

「arrowhead」では、Linuxにもかかわらず長期保証を提供しています。これらも新しいチャレンジでは?

確かにこの長期保証は、それまでのLinuxにはない、旧来のメインフレーム的な発想でしょうね。ある時、メインフレームにおける障害を調べていて気づいたことがあったのです。それは発生する障害の95%は既知障害であること。つまり、世界中で膨大な数のLinuxが動作しており、他のお客様で同様の障害が発生し、既に対応パッチが用意されている場合が殆どなのです。このようにLinuxのパッチをできるだけ安全に適用していただくための取組みである点が、従来のメインフレームから一段進んだ間取り組みと考えています。

私たちは、この常識を打ち破って、適時にパッチを当てることによって障害の発生率を抑えようと考えた。Linuxならそれも可能です。そんな発想のもとに実現されたサービスが長期保証なのです。

ところで、ミッションクリティカルなシステムにLinuxを搭載することについてクライアントは危惧しなかったのですか?

今も話したように、私たちはいきなり「arrowhead」にLinuxを搭載したわけではなく、小規模なシステムで実証を積み重ねていましたから。それに当時すでに、ニューヨークの証券取引所でもLinuxのシステムが採用されるなど、ミッションクリティカル分野でもLinuxの認知度が高まりつつありました。現在では、世界の証券取引所などのシステムのうち、約9割がLinuxだと言われています。

富士通はLinuxに先駆的に取り組み、現在もLinux開発において中心的な役割を果たしています。なぜ、そこまでこだわるのでしょうか?

突き詰めて言うのならば、やはりOSは自分たちの手でつくらなければならないという信念があるからだからと思います。サーバにしろアプリケーションにしろ高品質な製品をお客様に届けていくためには基盤となるOSにまで踏み込んでいくべきであると。すべてを自前でやるのは無理としても、OSにはしっかりと自分たちの「魂」を込めておきたいですよね。

コミュニティに積極的に関わり、ファウンデーションで中心的な役割を果たしているのもそんな想いがあるからでしょう。私は2010年に前任者からLinux Foundationのボードメンバーを引き継ぎ、現在は富士通の功績が認められてボードのバイスチェアを務めさせてもらっています。

富士通の取り組み
1991 (Linuxの初版リリース)
2000 Linuxへの取り組み開始
2001 IBM、NEC、日立と4社協業を発表
2002 Linuxの専任チーム設立
2005 基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」発売
2007 Linux Foundationが発足し、ボードメンバに就任
2010 東証の株式売買システム「arrowhead」稼動
   
  現在、Linux Foundationのボードのバイスチェアを務める

【OS・OSS・クラウド 用語解説】

  1. オペレーティングシステム(OS): コンピュータのオペレーション(操作・運用・運転)のために、ソフトウェアの中でも基本的、中核的位置づけのシステムソフトウェア。
  2. UNIX(ユニックス): 1969年にAT&Tのベル研究所で開発されたコンピュータ用のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステムの一種。
  3. BSD(Berkeley Software Distribution): 1977年からカリフォルニア大学バークレー校のコンピュータシステムリサーチグループ(CSRG)が開発・配布したソフトウェア群、およびUNIXオペレーティングシステム。世界中のUnixのベースとなった。
  4. Solaris(ソラリス)は、1992年にサン・マイクロシステムズによって開発され、UNIXとして認証を受けたオペレーティングシステム。オラクルによるサン買収に伴い、現在の開発は同社が担っている。
  5. OSS(Open Source Software): ソースコードが利用可能で、著作権保持者がどんな目的のためでもソフトウェアを、学習、変更、そして配布するための権利を提供するライセンスに基づいたソフトウェア。
  6. Linux(リナックス): UnixライクなOSカーネルであるLinuxカーネル、およびそれを用いて構築されたOS環境で1991年にOSSとして初版が公開された。2007年に非営利のコンソーシアムであるLinux Foundationを設立し、Linuxの普及、保護、および、標準化に取り組んでいる。
  7. Core Infrastructure Initiative(CII)とは、2014年に設立したLinux Foundationのプロジェクトであり、支援が必要なオープンソースプロジェクトを見極めて、人材獲得やセキュリティ強化といった必要経費のための資金を提供する団体。
  8. OpenStack(オープンスタック): 2010年にRackspace HostingとNASAによって始められたIaaSクラウドコンピューティングプロジェクト。2012年に非営利のコンソーシアムであるOpenStack Foundationを設立し、OpenStackの普及、保護、および、標準化に取り組んでいる。なお、Linux Foundationとは独立した団体である。
  9. コンテナ:一つのOS環境に分離された空間を作成し、それらごとに異なるOSの実行環境を動かす仮想化方式。
  10. Open Container Initiative(OCI): 2015年に設立したLinux Foundationのプロジェクトであり、Linuxコンテナを始めとする、OSレベルの仮想化を標準化している団体。
  11. クラウド・ネイティブ: クラウド上での利用を前提として設計されたシステム、アプリケーション、サービスのこと。
  12. Cloud Native Computing Foundation(CNCF): Linuxの新しい標準のコンテナ技術により、クラウド・ネーティブ技術やサービスの開発を進める非営利団体。2015年にLinux Foundationとの共同プロジェクトとして設立した。

富士通株式会社 プラットフォームソフトウェア事業本部
Linux開発統括部 統括部長

江藤 圭也

1987年入社。10年ほどOSの研究開発に携わり、UNIX系のOSSであるBSDの開発を経て、2000年前後あたりから本格的にLinuxに取り組む。またLinux Foundationの創設に携わり、現在も役員としても活動している。

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